こんにちは!編集長です。
この記事では、特別区が直面する最重要課題と、その解決に向けた政策を解説します。
特別区採用試験の面接試験では、特定の区に関する課題や政策ではなく、特別区全体に共通する重要な課題や政策が問われます。
近年の特別区が抱えるもっとも重要な課題と政策を4つ紹介するので、じっくり読んでくださいね。
【特別区】重要課題と政策①:自然災害
地震・津波・台風・集中豪雨など、自然災害の脅威は年々高まっています。
特に、必ずやってくるといわれる首都直下地震による激震に襲われれば、多数の死傷者・家屋の倒壊・高層ビルのエレベーター停止・膨大な廃棄物・交通マヒ・ライフラインの機能不全・通勤通学者の帰宅困難などで、どれほどの人的・物的な損失と苦難が発生するか測り知れません。
2022年5月に東京都が公表した首都直下地震の新たな被害想定では、東日本大震災を上回る規模の帰宅困難者が見込まれています。
また、タワーマンションが増加するとともに高齢化が進展したことにより、陸の孤島や災害関連死のリスクが増すという防災上の課題が浮き彫りになっています。
自然災害は地震だけではありません。
近年、特別区においても、多発した集中豪雨によって、海抜が高く大きな河川もないところで浸水被害が多く出たことは記憶に新しいです。
区民一人ひとりが、区が公表しているハザードマップを近隣の人々と学び合い、イザというときにどのように命を守るのか確認しておく必要があります。
また、公園や小中学校など区内のできるだけ多くの場所に、情報伝達のために防災無線を設置し、避難場所に食料や毛布などの日用品を備えるなど、防災・減災のまちづくりが求められています。
【特別区】重要課題と政策②:少子化
特別区長会調査研究機構の2019年度調査研究の一つ、「大局的に見た特別区の将来像に関する報告書」は、特別区の人口動態に関する長期的な推計を行った結果、2055年という転換点を導き出しています。
報告書の総括では、次のように述べています。
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特別区の人口は、すでに人口減少局面に突入している全国の動向とは異なり、令和17年(2035年)まで増加することが見込まれる。
14歳以下の若年人口は、平成27年(2015年)を基準とすると、令和37年(2055年)時点では減少するものの、全国平均に比べて減少幅は小さい。
他方、平成27年(2015年)から令和37年(2055年)にかけて、高齢者人口は約100万人増加すると推定される。
特別区では、令和37年(2055年)に向けて、高齢者人口が急増する一方、若年人口の減少率と高齢化率は、全国平均よりも低い水準で推移していくのである。
このように、高齢化のペースが相対的に遅い特別区に関しては、他の地域に比べて行財政運営の面で恵まれているという評価を下すこともできるかもしれない。
しかし、令和37年(2055年)を見据えた特別区の将来像は、決して楽観視できるものではない。
特別区における高齢者人口の絶対量の増加は、医療・介護ニーズが長期にわたって増加し続けていくことを意味する。
そのため、インフラ・公共施設や都市整備の面では、各種施設の更新に加え、新規の需要を考慮に入れておく必要がある。
首都直下地震をはじめとする大規模災害への備えを怠るわけにはいかない。
このように、特別区においては、今後、ソフトとハード両面の需要が他の地域とは量的にも質的にも異なる形で顕在化していく。
しかし、特別区は、令和37年(2055年)に向けて、こうした需要に対応する供給力を十分に確保することができないという「供給の危機」に直面する可能性が高い。
特別区においても、生産年齢人口(15~64歳)は減少し、生産活動や行政運営に必要とされる担い手は絶対的に不足していく。
特別区の生産年齢人口は、令和12年(2030年)頃をピークに減少に転じ、令和37年(2055年)時点では、平成27年(2015年)に比べて約56万人減少する。
2040研究会の第一次報告では、「若者を吸収しながら老いていく東京圏」という表現が用いられたが、今後、特別区を中心とする東京圏に若者を供給してきた地方圏における若年人口が減少していくため、人材供給源を失った特別区では、公共私を問わず各種サービスの供給力が低下し、社会経済活動の深刻な縮退が起こることが懸念される。
特別区は、「2055年問題」の深刻さを認識した上で、「供給の危機」への備えを万全にしておく必要がある。
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東京都の人口動態統計によれば、特別区の合計特殊出生率は2016年1.22、2017年1.20、2018年1.19、2019年1.13、2020年1.12となっています。
特別区は少子化の極地であり、東京への流入人口が増えれば増えるほど日本全体の少子化が進むことになります。
特別区は都や国、民間企業と協力し、若い人々が安心して結婚し子どもを産めるような生活環境を整えることが求められています。
【特別区】重要課題と政策③:高齢化
特別区において、一人暮らしの高齢者が増加しています。
2015年に一般世帯に占める高齢者単独世帯の比率は11.1%だったのに対し、2035年には15.8%になると推計されています。
地方圏から流入してきた団塊世代が、配偶者の死別などで独居こうれいしゃになるケースが相次ぐとみられているからです。
また、高齢者の5人に1人が認知症とされているほか、高齢者の親と長期引きこもりの子どもの世帯も増加しています。
したがって、高齢者でも働き続けられる環境を整えることや、元気高齢者の居場所と出番を用意すること、一人暮らしの高齢者が地域社会との関係性を失わないように近隣の人々による共生支援の活動を活性化することが重要です。
一方、特別養護老人ホームやケア付き高齢者住宅を整備し、見守りや成年後見などのケアを必要とする高齢者への支援体制を確立することも、忘れてはなりません。
高齢化する東京が安心な終の棲家となれるよう、効果的な取り組みが求められます。
【特別区】重要課題と政策④:デジタル化
若い世代を中心にデジタルネイティブが時代の主役になろうとしています。
今後、デジタル化は速度を上げて進み、これまでの職場や生活のスタイルを大きく変えていくでしょう。
特別区の職員構成でもデジタルネイティブが多数を占めるようになります。
職員同士でチャットを使う機会は増えているし、庁内の会議資料はタブレットから閲覧し、ウェブ会議には外出・出張先から参加できる。
デジタル化の進展は、役所と住民の関係も変えていきます。
すでに、マイナンバーカードを使って役所に出向かなくても電子申請ができるほか、新たな試みとして、一人暮らしの高齢者がタブレットを使って役所からの安否確認に応答したり、通学路など街中の公共施設の不具合を見つけたらスマホで写真を撮り、役所に連絡するという取り組みが始まっています。
デジタル社会は、住民がパソコン・スマホを持ち、ネットを使えることを前提としています。
しかし、ネットを使えない人、今はネットに長けていても加齢や疾病によりネットを使えなくなった人への対応が欠かせません。
その対応に当たる職員には、他者の感情を共感的に読み取り、協調的に行動できる能力が強く求められます。
また、パソコン・スマホは、いつでも・どこでもネットにつながって当たり前の存在になっていますが、システムの不具合で急につながらなくなれば、人命を脅かしかねない事態も起こり得ることを忘れてはなりません。
一方、新型コロナウイルス対策でとられたテレワークに関して、民間企業では今後も進むのではないかと推測されています。
特別区においても一部在宅勤務が行われましたが、これが一挙に全面化することはないかもしれません。
しかし、在宅勤務は子育てや介護などを抱える職員の多様な働き方を実現する狙いもあります。
その実現に向けて、情報セキュリティや人事管理などの検討を進める必要があるでしょう。